グローバルスタディーズ専攻 ゼミの学び

世界の昔話で見るハッピーエンドか否かの分かれ道

日欧の「異類婚姻譚」に見る宗教観や文化の違い

昔話研究入門(Global Studies 1st-Year Seminar)
世界には同じようなモチーフが見られる昔話がたくさんあります。人間と人間でないものが結婚する話が盛り込まれた物語を「異類婚姻譚」といいますが、それもそのひとつです。たとえば日本の「鶴の恩返し」は貧しい男が主人公で、人間の姿で現れた鶴と夫婦になる話ですが、対してフランスの「美女と野獣」は獣に化かされた人間と人間が惹かれ合います。
ただ、西洋の異類婚姻譚は、呪いや魔法で人間が獣などになり、呪いを解いて結ばれるというものです。つまり、人間が動物になることは忌まわしい呪いであり、動物は人間より下の存在として描かれ、そこに畏れはありません。キリスト教圏では、人間も動物も神の創造物として等しい存在だから、そこに忌避はあっても真の恐怖はないのだと考えられます。
一方、日本の昔話では多くの場合、動物は呪いなどに起因せず人間の世界に現れます。恩返しをしたいなどそれぞれの理由があってやってきますが、人間でないことが知られるとその関係性は破綻し、ハッピーエンドにはなりません。人と動物は同じ世界に共存できないものとして、あいまいだった境界線が引き直され、主人公は畏れを抱くのです。これは自然を崇拝し畏怖の対象とする日本のアニミズム(すべてのものに霊魂が宿るという考え方)に由来するものだと考えられるでしょう。このように、同じ異類婚姻譚でも、西洋と日本では文化的な違いやそれぞれの宗教観を読み取ることができるのです。

世界を知るにはまずは自分の足元から知る

私の受け持つゼミでは、1年次にはこのようにヨーロッパと日本の昔話を考察・比較しながら精読・発表・討論・論述のスキルアップをめざしますが、2年次以降は、より難解な文学作品に触れ、その背景となる知識を得ながら高度な探究に進みます。たとえば、芥川賞受賞作『犬婿入り』など昔話をモチーフにした作品群です。学生たちが深く掘り下げ、さまざまな解釈ができる作品を選ぶようにしています。文学に触れる経験が少なかった学生でも、1年間をかけて作品の意味を理解するうちに、それを楽しめるようになり、読むスキルも書くスキルも格段に上がってきます。
国際教養学部で日本の文化や文学作品を扱うのはなぜでしょうか。それは、グローバルに活躍するためには、世界のことを知ると同時に、足元の自国のことを知る必要があると考えるからです。また、文学には人間らしい営みが詰まっています。その作品を読むことは私たちの心を癒し、豊かにしてくれることでしょう。

リンジー・モリソン 准教授

国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科博士前期課程比較文化専攻修了、同博士後期課程アーツ・サイエンス専攻修了。2017年より武蔵大学に着任し、2022年より現職。専門は日本文化論、日本文学。