英語英米文化学科 ゼミの学び

『リチャード三世』の主人公の行動は 現代のある国のリーダーに似ている?

シェイクスピアの時代と 今の社会をつなげてみると

近世イングランドの戯曲を読む(イギリス文学ゼミナール)

英国の劇作家であるウィリアム・シェイクスピアは、1600年前後のロンドンの劇場を訪れた観客に向けて、多くの戯曲を残しました。今も世界中で上演されているそれらの作品には、現在の政治や社会を連想させる展開が多数登場します。たとえば『リチャード三世』の主人公である狡猾な男リチャードが、王の地位に就くために信心深いフリをして市民の前に現れ、支持を得るシーンは、近年のドナルド・トランプがとった行動を思わせてとてもリアルです。同様に、今私たちが親しんでいる映像コンテンツやゲームなどにも、シェイクスピアの時代の戯曲や文学作品を題材とするものがたくさんあります。自分とは関係のない昔の物語だと思っていた作品も、今ここにいる私たちのために書かれたものだと思って読んでみると、普段親しんでいるエンタメ作品の背景まで見えてきて、より深く味わうことができるでしょう。
戯曲とは、舞台上演の設計図です。設計図を見て完成した建物を想像するように、私たちは戯曲を読みながら演出や空間の使い方を考えることができます。さらに歴史的背景、その当時のジェンダーや人種、階級といった観点から作品を分析することもできます。物語の面でも、作家が作品をコントロールする小説とは異なり、一人ひとりの登場人物が独立して動き、一つのお芝居のなかにいくつもの声が流れていて、どの登場人物に着目して読むかで演出が変わってくるところに面白さがあります。

良き市民、観客、消費者 として作品世界に触れる

ゼミでは、シェイクスピアなどイギリスやアイルランドの劇作家の戯曲を扱います。舞台映像を見て作品世界への理解を深めてから、その戯曲を英語で読んでいきます。希望者で観劇に行き、実際の舞台に触れる機会も設けています。そのように舞台を楽しむことを第一としつつ「良き市民、良き観客、良き消費者」を育むことを指導方針としています。良き市民とは、政治について自分で考えて行動できる人。良き観客とは、コンテンツの芸術的な良し悪しを自分で評価しつつ楽しめる人。良き消費者とは、商品の価格や品質だけでなく労働環境や環境負荷などの生産プロセスを含めて購買を決められる人です。古典作品の背景から政治や差別について学ぶととともに、演劇界で問題になっているハラスメントなど、自分が見ている芝居がどのような環境で作られているかまで思いを巡らせるきっかけになればと考えています。

北村 紗衣 教授

東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論修士課程修了。キングス・カレッジ・ロンドン英文学科博士課程修了。武蔵大学人文学部准教授を経て、2023年より現職。専門は英文学、舞台芸術史、シェイクスピア、フェミニズム批評。