2017.03.07

Category:人文学部 その他

基礎教育センター 教授 丸橋珠樹

どんぐりの降る日!

こどもの頃、どんぐりを拾い集めた思い出が、必ずあることでしょう。日本はドングリ王国です。大小さまざまなどんぐりがあることや、ソケットにも色んなタイプがあったことを思い出すに違いありません。私たちには、あまりに身近な植物なのですが、植物が作る果実の中では独特の形態です。このドングリを作る植物がブナ科です。鋭い刺に包まれたクリもその一つですし、西欧のオークもその仲間です。日本列島にはブナ科の樹木が20種も分布しています。秋になると、武蔵でも多くの種類をみることができます。

 

図1

写真説明:大分県の国東半島農業研修では、毎年、栗拾いをさせてもらっています。研修先で貸してもらったお揃いのジャージを着ている中嶋さんによると「栗をイガから取り出そうとしたが、コロコロ逃げるので意外と踏みつけ辛かった。栗が三つ入っていると幸せな気持ちになる。逆にもぬけの殻だと気分が下がった」とのことでした。(中嶋さん撮影)

 

武蔵は文化系の大学ですが、数多くの理系科目も開講され、化学、物理、生物の実験科目も用意されています。生物学ラボワークでは、毎年9号館前のシラカシのドングリ落下数を調査しています。秋になると木の下にどんぐりトラップを設置しているのが見られます。

図2

写真説明:生物学ラボワークで、シラカシ下のトラップからどんぐりを回収しているところ。足元には落ち葉と沢山のどんぐりが落ちています。

 

樹木の葉が茂り、花や果実が実るところを樹の冠、樹冠と呼びます。その樹冠を地面に投影した面積とトラップ7箇所の面積との比率から、落下個数を推定しています。9月16日から12月9日まで毎週13回、トラップに落ちたドングリの個数と一個一個の乾燥重量をミリグラム単位で計測しました。

 

図3

写真説明:シラカシは、春に花が咲き秋に実るタイプのどんぐりです。実り始める夏8月から秋へと、ぐんぐんと大きくなります。先端の三又になっている突起は、めしべの残りです。

 

図4

写真説明:まだ落下が盛んになる前の10月には、どの枝も垂れ下がるほど、本当にたわわに実っています。でも、下から見上げてもこんなに実っているとは気づきません。

 

学生から「どんぐりの降る日」があると言われたことがあります。3号館中庭のベンチに座って長時間、友人と語り合った想い出の日は、まるで雨が降るようにどんぐりが落ちてきたというのです。

 

グラフ1には毎週の落下個数の季節変化が示されています。昨年2016年の落下総個数は4万8400と推定されました。落下数グラフをみると気がつくとおり、11月18日には1万5500個のドングリが落下していました。もし、一週間、昼夜同じペースで落下していたら、毎分1.5個のドングリが落下していた計算になります。ピーク前後の3週間で約3万個がまとめて落下しました。自動車にひかれて粉々になってしまったどんぐりを見かけた人も多いことでしょう。

 

図5

グラフ1:2016年度のシラカシの落下どんぐりの季節変化

 

生物学ラボワークでは、2007年から毎年継続して同じシラカシの落下個数を調べてきました。毎年、大きな増減を繰り返し、この10年間をすべて平均すると5万6000個です。グラフ2からわかるように、2015年は別格に多くて17万3000個で、2016年の約3.6倍でした。2016年の落下速度、毎分1.5個の3.6倍で単純に計算すると毎分5.5個、つまり約10秒に1個落下していたことになります。学生の言っていた「どんぐりの降る日」は、あながち誇張ではなかったのです。

シラカシは、なぜ⼤きなピークでまとめてどんぐりを降らすのでしょう?どうして、落下数に⼤きな年変動が起きるのだろうか?秋のドングリが落下する頃のブログで種明かしをします。

図5

グラフ2:2007年から2016年までのシラカシの落下どんぐり数の経年変化

 

武蔵の身近な生き物を通して、生命の進化を考えるのが、この科目の目標です。動物や植物にはそれぞれ独自の進化の枠組みがありますが、共通した進化原理もあります。ヤツデの性転換、雄と雌への性投資、種子散布と稚樹なども調査項目です。
武蔵は緑が多くてほっとします。人は生物が多様に息づいている場所に安心感をいだくのだと思います。大都会でも、生き物が「まぜこぜ」で共存できる環境を保つことができる良い例が武蔵なのです。武蔵の生き物たちを「自ら調べ考え」て、武蔵の緑の歴史に思いを馳せて欲しいと願っています。

図6

写真説明:2008年に撮影された武蔵の航空写真。大都会の中で、生物の避難所の役割も果たしている。

 

最後に、受講生レポートからの抜粋を二つ紹介します。
「文系大学で理系を履修して、忘れていた理科の記憶が少し呼び起こされました。今回調査した部分はみんなに話せるほど詳しくなれたし、たまには理系もいいなと思いました。気になっていたミツバチプロジェクトのハチミツも食べられたし、1回目の採ってきたハーブで飲んだハーブティーも印象的です。この授業を履修してよかったです。」
「この授業は自然に触れる機会を与えてくれ、選択してよかったと感じている。今までと自然への見方が変わり、武蔵の緑についても興味がわいた。何気なく通っていた道も、どんぐりが何個落ちているか、この木は何歳なのだろうと考えるようになった。」

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