人文学部ゼミブログ

2024.03.01

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  • ヨーロッパ文化学科

じっくりと観る:イメージとの対話

ブログ投稿者:ヨーロッパ文化学科 准教授 瀧本 みわ

ゼミの授業を受け持つようになってから、自分が学部生だった頃を思い起こすようになりました。大学では、西洋美術史研究の真髄を教えてくださった先生方に出会えたことはもちろんですが、学科の小さな図書室で図版を広げながら、級友たちと、ああだ、こうだと、とめどなく話していたのが一番の思い出です。議論というにはまだ稚拙であったけれども、気になる作品や課題で与えられた作品があると、皆で貴重な洋書のカラー図版に顔を寄せ合いながら(現在のように、高画質の画像をインターネットで簡単に見つけることもできない時代でしたので)、その造形をひたすら観察しました。教える立場となったいま、その感覚を原点に、授業をつくることができたらと考えています。
3年生を対象とした専門ゼミでも、可能な限り、作品を「じっくり観る」時間をとるようにしています。そして、それが絵画作品であれば、どのような大きさの画面に、「何が」「どのように」描かれているかを、文章にしてもらいます。美術史の分野ではこのことを「ディスクリプション(作品記述)」と呼びます。初歩的で単純に聞こえるかもしれませんが、美術史研究において最も難しい作業でもあります。なぜなら、観察から得た視覚的内容を、自分の言葉で表現する、すなわち言語化しなければならないからです。
春学期はルネサンスから近世、秋学期は近現代の作品を取り上げながら、各自ひとつの作品について研究成果を発表しました。全員、苦労したと思います。特に、文献を読むことが得意な人は、自分の眼より、文字情報が先行してしまいます。作品自体を見ずに、本に書かれた内容をまとめただけで、作品を見て理解した気になってしまうこともあります。もちろん、文献を集め、先行研究を学ぶことは必須です。しかし同時に、美術史は、まず作品ありきで、個人が作品に対して感じた「第一印象」も重要です。だからといって、「感性でみる」といった生やさしいものでもありません。ある作品を「美しい」と感じたならば、その「美しさ」は何に由来するのか、色彩から、筆使いから、構図や空間の構成から、人物の表情や身振りから、布の衣線から、造形に関わる様々な視点から考察する必要があります。そうした造形的な特質を踏まえることで、図像や主題の考察や、歴史的背景との検討といった、次の研究へのアプローチがみえてきます。
1年間の「ディスクリプション・トレーニング」を経て、ゼミ生が書き上げた秋学期のレポートは素晴らしいものでした。それぞれの努力はもちろんですが、研究発表の場での豊かな意見交換や情報共有の成果でもあると感じています。こうして培った観察眼に自信をもって、卒業論文を準備していきましょう。
 
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