自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2021.09.08

  • 武蔵One Point自然観察

蜜蝋採取 (Now 武蔵の自然 No-41)

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹

江古田ミツバチプロジェクトでは、毎年3月末に新しい女王蜂と巣箱が到着し3号館屋上での養蜂を再開しています。新しい巣箱に追加できる巣板と使わない巣板を整理したところスムシが湧いてしまっているのもありました。使えそうにないものを蜜蝋にしました。20枚ほどの昨年の巣板から1.5キロほどの蜜蝋を取ることができました。巣箱の中や保管していた巣板で蜜蝋を食べて消化できる不思議な虫です。成虫になると蛾となります。
写真01:3枚に分けて蜜蝋板を作り、総重量は1.47キロでした。撮影日時: 2021:04:13 09:19:06
写真02:虫が湧いたり痛んだりした巣板。白くクモの巣のようになっているのは沢山のスムシが湧いた場所です。巣板が黒ずんでいるのは蜜蜂がプロポリスを塗ったためです。撮影日時: 2021:04:07 12:53:57
 巣を鍋に入れ、重しを載せてオーブンで加熱すると蜜蝋を採取することができます。利用している鍋は、スパゲッティー用の2重になった鍋で、中鍋には沢山の穴が空いていて、なべ底に蜜蝋を溜めることができます。中鍋底に木綿のさらしをひいて不純物をろ過しながら、加熱します。結構な重しを載せているのですが、6角形のハニカム構造は強くて、蝋は沢山溜まったのに、まだ蜜蜂特有の巣構造が残っていることも多い。
  • 写真03:重しを載せてオーブンで加熱。蜜蝋の融点は63度です。撮影日時: 2021:04:09 09:34:59
  • 写真04:蝋が溶け込んだ晒木綿は美しい黄色に染まっています。薄い生地に蜜蝋を染ませて利用すれば、水にも強い包装布としても何度も利用できます。まだ、巣の構造が残ったままになっています。撮影日時: 2021:04:09 09:24:33
  • 写真05:アルミ製のバットに流し込んだ直後は、こんな色をしています。撮影日時: 2021:04:09 09:25:09
  • 写真06:しばらくすると固まって蜜蝋となります。冷え切ると裏返してパカンと叩くと綺麗に剥がれて板となります。撮影日時: 2021:04:09 09:32:36
 蜜蝋は、灯り=蝋燭の原料でした。西洋の教会ではロウソクは膨大に利用され、修道院では養蜂が盛んに行われ生産されました。燃えせばほのかに蜜特有の香りもあるので、由緒ある木造教会では、建物全体に蜜の匂いが染み込んでいるそうです。蜜蝋ロウソクの特色の一つは、燃えてもほとんど煤をださないことです。そのため、古い教会内部の壁画や絵画が煤で見えなくなってしまうことはありません。植物由来の菜種油や櫨蝋だと煤が多量に出て日本の寺院にあるように煤けてしまうのとは大違いです。
 
油と混ぜればクリームになりますし、金型の元となる精緻な型造形の原料として、金属加工技術にも使われています。絵の具のメディウムとしても利用され、長くその色を保つことができます。ヨーロッパでは9000年も前の土器片から蜜蝋成分が検出されていますし、人と蜜蜂の関係はとても古い歴史があることがわかってきています。
 
最近の面白い話題は、養蜂家にとっては害虫スムシですが、プラスチックを食べて消化できることが判明し、その化学的分解プロセスを真似すれば、処理に新しい道が開けるかもしれないと話題になっています。一面だけ見れば「害」なのでしょうが、多様な視点で見れば、素晴らしい能力を秘めているからこそ、害虫といわれるくらい大きな働きをするものなのかもしれません。