自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2021.04.01

  • 武蔵One Point自然観察

コブシとモクレンの仲間(Now 武蔵の自然 No-31)

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹

コブシは春先で一番目立つ花です。桜よりも早く咲き、大型の花なので印象的です。武蔵構内にも大きなコブシがニ号館から八号館空中庭園への空中通路のすぐそばにあります。背の高い木ですが、3階の高さに設置されている通路から、目の高さで花を間近に観察できます。花を見上げるのではなく、花の中の構造をのぞくこともできます。植物進化のなかで原始的な花の特徴を残す、現生植物とのことですから、じっと見れば地球生命史の一端を感じることができるかもしれません。

コブシは日本列島の北海道から九州、韓国済州島に分布していますが、四国には分布していないと図鑑には書いてありましたが、理由はわかりません。雪国では、この花の開花は農作業開始の目安となり、田打ち桜とも呼ばれたりするとのことです。

写真01:花弁下部に色がついていて萼の長さが花弁の長さの1/3ほどなのがコブシ、萼の長さが半分ほどだとタムシバで花弁は純白が識別点。撮影日時:2021:03:19 09:45:45
写真02:生協食堂の前にある武蔵のコブシが満開。撮影日時:2021:03:19 09:43:32
花弁が濃い紫のシモクレンは中国原産の植物です。花が咲いても全開しません。青空との対比が美しい花です。武蔵構内には生えていませんが、街中や公園ではよく見かける特徴的な春の花です。モクレン科の仲間は、樹皮やつぼみなど漢方薬の原料となったり、良い香りがするので香料の原料として利用されたりします。
  • 写真03:花弁の内と外とのコントラストが鮮やかなシモクレン。撮影日時:2021:03:11 08:37:49
  • 写真04:開花しはじめた紫モクレン。シ(紫)モクレン。撮影日時:2021:03:07 09:15:50
 武蔵を北に出て西武線を越えて最初の四つ角を左に曲がると税務署があるのですが、その庭にポツンと咲いていたシデコブシです。神前に供える注連縄や玉串についている紙飾りであるしでに似ていることが名前の由来です。愛知県、三重県、岐阜県にだけ自生する日本の固有種です。日本で起きている生物進化の見事な事例の一つですので、ぜひ目にしてみてください。
  • 写真05:濃い色のシデコブシ。撮影日時:2021:03:15 14:26:03
  • 写真06:色合いが淡いシデコブシ。練馬税務署の庭。撮影日時:2021:03:15 14:20:24
シデコビシの分布と進化は特異です。東海地方の丘陵地帯、水が浸みだす湿地などの限られた場所にのみ分布しています。500万年前の第三紀鮮新世のころにできた東海湖の沿岸地帯に特有に分布する「周伊勢湾要素(東海丘陵要素植物群)」の一種だそうです。文献には、以下の一群の植物がセットとして列挙されていました。シデコブシ、へビノボラズ、ナガバノイシモチソウ、カンサイガタコモウセンゴケ、マメナシ (イヌナシ)、ハナノキ、ナガボナツハゼ(ホナガナツハゼ)、ヒトツバタゴ、 ミカワシオガマ、ヒメミミカキダサ、 ミカワバイケイソウ、シラタマホシクサ、ウンヌケ。丘陵地帯は都市化の波にさらされ、特有の進化を遂げた一群の植物が生育できる環境保護の重要性が訴えられています。

モクレン科は世界で70種ほどが知られていますが、現在はアジアと北アメリカ大陸の温帯や熱帯に隔離分布しています。このような特異的な分布パターンを示す植物の一群を第三紀周北極要素というそうです。別ページで紹介した日本のヤマボウシとアメリカのハナミズキも含まれます。

今から200万年前には地球は暖かく北極の周りには落葉広葉樹林が広がっていました。その後寒冷化が進むにつれて北アメリカとアジアの温帯へと二方向に分布が移動し、それぞれの地域で元は同じ種類の植物が進化したのです。この説を最初に唱えたのは、アメリカのグレイ博士でした。彼が日本から持ち帰った植物標本とアメリカの植物とが互いに近縁であることから着想を得たそうです。

今では庭木として世界中の公園で見ることができ、春を告げるモクレン科の花ですが、自生地の環境を守ることは地球の歴史を保存することにつながるのです。