自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2021.04.01

  • 武蔵One Point自然観察

武蔵の針葉樹(Now 武蔵の自然 No-30)

ブログ投稿者:基礎教育センター 教授 丸橋珠樹

武蔵構内でみることができる針葉樹のなかから三種を紹介します。正門を入ってくると右側の道路添いにあるのがモミ、左側一号館のそばにあるのがヒマラヤスギです。講堂のほうへ進むと道の真ん中にあるのが赤松で、木肌が赤いので納得の名前です。この三種はいずれも花粉媒介と種子散布では風を利用しいずれも翼があります。
写真01:隙間から種がちらっと見える。撮影日時:2021:02:21 15:36:56
 針葉樹は文字通り葉の形に由来していますが、幅広い葉をしているナギや鱗状の葉をしているヒノキなど多様です。広葉樹に対する植物の一群で、温帯北部から寒帯に分布していて常緑が多く、杉やヒノキなどの有用樹を含んでいます。針葉樹の果実は球果といって、松ぼっくりを思い出せばわかるように、種鱗がぎちっと集まり球果とよばれる特有の形をしています。種を飛ばすときには球果の種鱗が開いたり、バラバラに落ちたりしながら種を散布します。


食用となる松の実は、針葉樹のなかでは大きく美味しい種子を生産し、皆さんも食べたことがあるでしょう。カヤの種子は炒って食べれますし、イチイには仮種皮がついた動物散布タイプもあります。
  • 写真02:講堂前のアカマツには松ぼっくりが沢山実っていた。撮影日時:2021:02:21 15:35:10
  • 写真03:1号館横のヒマラヤスギに雄花が沢山咲いていた。撮影日時:2020:11:21 15:51:32
  • 写真04:受粉が終わり落下した雄花が多数に落ちていた。風散布の受粉効率を上げるため雄花がたくさん咲くのだろう。撮影日時:2020:11:21 10:44:30
  • 写真05:大学そばの公園で見つけたヒマラヤスギ球果にはまだ種が残り、そばには雄花もあったので一緒に撮影。撮影日時:2021:02:13 09:45:46
  • 写真06:春を迎えモミに雄花が沢山咲き始めていた。撮影日時:2021:03:19 10:00:27
  • 写真07:武蔵のモミの一番上には飛び散ってしまった球果の軸だけが残っていた。撮影日時:2021:02:25 13:28:21
赤城山での2013年調査のまとめ図。
自然科学集中講座Aでは群馬県赤城山で植物調査を行っています。その調査テーマの一つがモミの種子散布と実生の分布です。直径80センチを超える母樹の根本から巻尺で50メートルの直線調査線を設定し、1メートル四方ごとにモミの芽生えや稚樹の数を記録します。この森では笹が一面に茂っているのですが、調査区画ごとに笹の被度も調査します。笹の葉が地面を覆っている割合を上から見ておおまかに評価します。笹葉の下の日照と発芽・成長とが関係しているかを調べてみました。左の図がその調査結果です。モミの葉が茂っている根元から10メートルくらいまでは笹が少なく、モミの芽生えが一平方メートルに30本ほどもありますが、離れると急速に少なくなっていました。
最後に、樹木と穀物は人類にとって最も大切な資源で、世界の神話にはいろんな由来譚が記されています。日本神話でも木も食べ物も、神様の体から出現したとされています。樹木の由来は日本書記「一書に曰く」に語られています。スサノオが、韓郷の島には金銀がある。わが子が治める国に船がなかったら困るだろうとひげを抜いて放つと、そのひげが杉の木、胸毛を抜いて放つと檜に、尻毛は槙に、眉毛は樟になった。杉と樟は、船を造るのによい。檜は宮を造るのに、槙は現世の国民の棺を造るのによい。たくさんの木の種を播こうと述べたそうです。木の神・スサノオ神話というサイトからの概要紹介です。

食べ物の由来は『古事記』で同じスサノオとの関連で述べられています。大気都比売(おおげつひめ)は、鼻や口、尻から様々な食材を取り出して調理して須佐之男命に差しあげた。しかし、その様子を覗き見た須佐之男命は食物を汚して差し出したと思って、大気都比売を殺してしまった。大気都比売の屍体から様々な食物の種などが生まれた。頭に蚕、目に稲、耳に粟、鼻に小豆、陰部に麦、尻に大豆が生まれた。神産巣日神(神産巣日御祖命・かみむすび)はこれらを取って五穀の種とした。Wikipediaから。

武蔵で針葉樹を見て回るときには、毎日の食物や人類を支えている自然の恵みについて考え、由来としてまとめられた人の精神の営みに思いを巡らしてください。