自然科学・身体運動科学分野活動ブログ
2020.07.02
- 武蔵One Point自然観察
ケヤキの散髪(Now 武蔵の自然 No-16)
皆さんも時間の流れが普段と違うので、髪が伸びたなあと思った人も多いこの頃かと思います。大都会では、大木は手入れは、お金もかかるし、建物を傷つけないようにと大変です。大学9号館に覆いかぶさるようになったケヤキの枝降ろし作業が行われました。文字通り、大きな枝を切って、地面に降ろす作業です。この木は、9号館建設当時にすでに大木でしたが、建物と接するようにして残されていました。この建物は、1988年昭和63年3月落成との記録がありますが、もう30数年になります。この30年間に建物を覆ように成長し、沢山の落葉で排水溝が詰まってしまいます。上級生は、9号館に出入りするときに、雨が止んだのにまだ雨が垂れてくると思った人も多いことでしょう。
根本で、本当に地面すれすれで測ると直径1.41m、周長4.42mでした。森林調査では、樹木の太さは生態調査の基本です。「胸高直径」というのですが、斜面であれば、山側に立って胸の高さですから1.3メートルくらの所で、メジャーをできるだ水平にして計測します。この木の「胸高直径」は地面から1.29mの高さで計測すると、直径1.08㎝、周長3.40mでした。3号館中庭の木(周長3.5メートル)と比べてもほとんど同じくらいです。
武蔵70年史に掲載されている約90年前の航空写真。濯ぎ川の流れはまだ用水路として機能していて、下流には水田が広がっている。濯ぎ川沿いには植樹されたばかりで更地状態。まだ、環状7号線はありません。千川通には江戸の上水道だった千川上水が流れているのも確認できます。講堂前にも大きなケヤキが確認できます。
このケヤキは、学園ができた頃、昭和初期ですから約90年前の写真にも写り込んでいます。3号館中庭のケヤキと同じくらいの大きさが、明瞭に確認できます(黄色の↓)。濯ぎ川の近くですから、光と水条件がよいのだと思います。地下水位も高いし、南からの光を存分に受けています。
高所作業車の台から職人が、器用に左右上下と操作しながら、小枝を切り落とし、大きな作業がしやすいようにしていました。小枝といっても、枝葉が付くと相当な重さで、一つ一つ、ロープをつけて降ろしていました。太い枝は、1メートルくらいづつ、切り刻みながら、安全か確保のため2重にロープをつけて降ろします。「今は梅雨時なので、本当に重い。冬だと、やはり軽いんだが」と運んでいました。それにしても、経験が必要な危険な作業だと見ていて、感心しました。
こうして切られた枝は、回収車で運ばれ、チップになって堆肥原料となるのだそうです。太枝は何かに使えそうと思っても、何かに使う流れが職人とともに、なくなってしまっているのでしょう。
切られた枝の年輪解析を行いました。最初の写真にあった大枝を降ろした太い幹では、直径が約33センチで読めた年輪が62本でした。途中の枝で、つまり、この太い枝を切る前のどこかは正確にはわかりませんが、太さ直径21センチで読めた年輪は52本でしたから、10年の差がありました。それぞれの年間平均成長は、太い枝で330/(62*2)=2.7mm/年、計測した別枝で、210/(52*2)=2.0mm/年でした。この木の成長を調べてみようということで、もう30年前になりますが、この木に写真のようなアルミ板とバネを取り付けました。この30年に取り付けた装置もバラバラになるほど、周長で約80センチ、直径で25センチほども成長していました。それぞれの数値をそのまま使えるわけではありませんが、200年前後は生きているのかもしれません。
一番外側の年輪を2019年として、中心に向かって毎年の年輪幅を計測したものです。太さ33センチの枝と21センチの枝とでは10年ほどの差がありました。年変動が激しいのですが、ひょっとしたら、結実年にはあまり成長せず、非結実年にはぐっと成長しているのかもしれません。5ミリも年輪幅があった年もあります。