自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2020.06.12

  • 武蔵One Point自然観察

蜜蜂の花粉団子(Now 武蔵の自然 No-11)

シロツメクサ、クローバーで花蜜を吸っている蜜蜂。足には花粉団子が付いている。撮影日時: 2020:05:05 09:28:06
武蔵大学で蜜蜂を飼っていることは、随分と有名になりました。新入生の半分くらいは入学前から知っていたと答えてくれます。昨年は養蜂開始から10周年でした。武蔵大学の社会貢献の一つとして、江古田の街の人々と武蔵の教職員そして学生が一緒になって活動しています。3号館の屋上で飼育しているので、直接目にすることはありませんが、8号館のエレベータホールの西の窓から、富士山を見るついでに屋上をみてください。飼育場が確認できます。
色とりどりの花粉団子ですが、主な種類は決まっているようです。蜂の大きさと比べると、一回に運んでくる花粉(両足で2個)の量が意外に多いと思いませんか?撮影日時: 2020:04:26 15:05:23
蜜蜂は送受粉という花粉の運び屋として植物とともに共進化してきた生物です。私たちの食糧生産にも欠かせない、働き手です。互いに利益を得る共生です。花は受粉サービスの報酬として蜜と花粉を蜂が受け取ります。蜜蜂はこの二つの資源を利用して、コロニーを維持し、次世代の子孫を育てます。

蜜は糖ですから活動のエネルギー、花粉はタンパク質ですから幼虫の成長に欠かせません。蜜蜂には運ぶ道具がありませんから、後ろ足に花粉団子として花粉を固めて運びます。お腹には蜜をため込んで、タンクローリーです。

花粉採取器の前で、通過に時間がかかるので蜂が貯まっている。金網の下の箱には、集めてきた花粉塊がちょこっと見えています。撮影日時: 2020:04:26 15:01:56
どんな花が蜜蜂の食料源となっているかを調べるには、開花している花の前で蜂がくるのを待つのも一つの手法ですが、花粉団子の花粉の組成を調べることで、量的な情報も得ることができます。季節の変化に合わせてどの種を選択しているかを調べれば、植物コミュニティー全体と蜜蜂の役割の関係を理解できます。花粉団子を液体に溶かして、顕微鏡で花粉の種類と数を決めていく方法です。
昨年、千葉大学の研究チームから依頼がありました。花粉DNAをまとめて調べる新手法を開発するので、花粉団子を毎月送ってほしい。その採取器は、構造は簡単ですが、この穴の大きさの調整が大変だったそうです。何とか通り抜けようとするときに、後ろ足から花粉団子が外れて溜まるという仕掛けです。
コロニー全体の食糧ですが、花粉も集まるとこんなにも重いと驚きです。撮影日時: 2020:04:26 15:17:33
一日で57グラムほど集まりました。いったい何個の花粉なのだろうか?ほとんどの花粉は20~50μm程度の大きさと国立博物館HPに出ていました。林野庁HPには、スギ花粉の大きさは、30μm(約1000分の30mm)で重さは12ナノグラム(1ナノグラム=10億分の1g)とのことです。仮にすべて杉花粉だと仮定します。コロニーが一日で集めてきた57gは個数は57グラム/12ナノグラム=約50億個となります。杉は花粉症でお馴染みのように、風散布型花粉なので、昆虫が運ぶ花粉はその10倍の重さと勝手に考えると5億個となります。あくまでも花粉数のイメージをつかむための概算ですので、信用しないでください。
 生物実験では何とか、花粉数を調べてみたいと思っています。花粉団子を定量の溶液に溶かしてバラバラにして、できるだけ均質に混ぜ溶きます。ピペットで溶液サンプルを採取し、花粉粒数をカウントしてみようと思っています。きっと多様で素晴らしい花粉形態ワールドを顕微鏡の中で目にできるでしょう。生命の不思議に挑戦したい人、実験を履修しなくてもチャレンジしてみてください。

花粉は非常に強い物質で構成され、スポロポレニンという生物界では一番分解されにくい高分子物質だそうです。胞子化石は約4億7千万年前から出現し、有機物ですが、分解されることはほとんどない物質です。

 

  • クロスズメバチ。地域によっては食文化の一つとされています。撮影日時: 2020:05:05 09:22:30
  • 大型のマルハナバチがしがみつくと花茎がぐっと曲がったしまうほどの重さです。蜜蜂と大きさを比べてみてください。撮影日時: 2020:05:05 09:23:34
静かな構内では、蜂の仲間が、同じクローバーの花園で、蜜集めや花粉団子を作っていました。蜜蜂は、八の字ダンスで花資源の位置と距離を伝えることができ、偵察バチと動員バチとで情報交換がなされます。マルハナバチは、互いに情報交換する能力が進化していません。孤独に、個体主導型の資源採取を行います。構内で蜂を見かけても、といっても大型のスズメバチは別ですが、怖がらず、数億年の花と蜂との共進化をゆったり観察してください。