社会学科 教授 垂見 裕子

教育をデータで語る―ゼミで学ぶデータと理論の関連ー

武蔵大学社会学部の学生は、3年生から2年間かけて卒業論文を書く「専門ゼミ」に所属します。私の3年専門ゼミのテーマは、「教育・格差」です。教育というものは誰もが経験しているだけに思い込みで語られることが多い分野ですが、データ(エビデンス)を用いて客観的に教育について語れるようになることを目標としています。多様な他者が交わるグローバル化する社会では、根拠を持って話したり書いたりすることがますます重要となっていること、また学生にはデータ分析スキルという具体的なスキルを持って就職活動に臨んで欲しいという想いから、このようにしています。

そのために、3年ゼミではまず「型」から入ります。指定された「良い実証研究」をペアで読み込み、クラスで発表します。学生は習ったことのない統計手法を四苦八苦しながら読みますが、重視しているのは、論文の柱となる問い・先行研究のレビュー・データの分析結果・結果からの考察を抽出し、それらの関連性を見出し、そしてその関連がはっきり分かるように発表することです。この作業を通して、良い実証研究とは何か、論理的な一貫性のある文章とはどういうものかを理解することを狙いとしています。


実証研究を読み込み、クラスに分かりやすく説明します。

次は「データ分析の実践」です。PC室にこもって、SPSS(統計ソフトウエア)実習です。SPSSを使いこなせるようになるために、コードの書き方から基礎的なスキルを段階的に実践的に学びます。数学が苦手で統計学にためらいがちな学生も、実際の大規模社会調査データを用いることにより、身近な現象や課題をデータで明らかにする醍醐味を体験すると、統計学に対する意識が変わります。また実際に手を動かしてデータをいじることで、客観的に見える量的調査もデータ処理(加工)の段階で様々な判断が必要であることを会得します。学生は理論とデータはかけ離れたものと捉えがちですが、データの加工や解釈には社会学の概念や理論を用いる必要があることを体験することにより、データと理論というのは行き来するプロセスであることを徐々に理解していきます。最初はつまずきがちなSPSS実習も、すべての課題をペアでやることにより、お互い助け合って理解を深めていきます。


PC室でSPSS実習。思うようにプログラムが動かない時は、他の学生の眼で確認、エラーを何とか探し出します。

夏休みは、いよいよ「自分たちで問いを設定し、データを用いて答えを導き出す」という実証研究一連のプロセスの体験です。公開されている社会調査を用いて、自分たちでシンプルな問いをたて、関連する論文を読み、問いを明らかにできる変数を探し、データ分析をし、結果を解釈してレポートを書くという作業を、引き続き二人のペアでやります。暑い夏休みの中、大学7号館3階のPC室に通い議論するペアや、他のペアに教えてあげる学生の姿も見られました。後期はまずこの発表からです。クラスメートからは、「そもそも何故その変数なのか」「逆の仮説も成り立つのではないか」「○○の手法を用いた方が、結果が分かりやすいのではないか」など辛口のコメントも出ます。問いに対して根拠となるデータを用いて論理的な答えを導くというのは決して簡単なことではありませんが、実践を通して学ぶのが一番です。また課題を通して、そもそもデータ分析をするための問いを立てたり、データを解釈したりするには、社会学の理論や社会に対する洞察力(いわゆる「社会学的センス」)が要であることを、多くの学生は実感します。

後期は、貧困などの困難な環境にある子どもたちに学習支援活動等を行っているNPOによる講演会なども予定しています。1年間を通して、教育や格差に対する理論、知識、実践の理解を深めるとともに、段階的にデータ処理、分析、解釈、結果の可視化を学ぶことにより、3年生の12月頃には自分たちそれぞれの卒論に臨むための術が確実に身についていると期待しています。根拠を持って議論すること、論理的な一貫性のある文章力は、卒業後に皆さんが羽ばたくグローバルな社会では必ず必要とされます。

ページトップへ