自然科学・身体運動科学分野活動ブログ

2023.09.15

  • 武蔵One Point自然観察

サクラケムシと蚕 (Now武蔵の自然 - 52)

ブログ投稿者:名誉教授 丸橋珠樹

 夏が過ぎる頃、武蔵のサクラにもサクラ毛虫が発生しました。武蔵では、ここ数年は少なかったのですが、今年(2023年)は構内のあちこちの木に見られました。和名はモンクロシャチホコ(Phalera flavescens)です。頭をあげる独特の姿がしゃちほこに似ているからとのことです。小さいうちは固まって食べていますが、脱皮を繰り返して大きくなると、葉をむしゃむしゃ食べ、一気に桜の木全体の葉がなくなってしまいます。最終令の幼虫は長さ5センチほどにもなり、木の下には沢山の糞があり、地面の色が変わるほどです。
 
最終令になると、桜の木からはいおりてきて、落ち葉や浅い土に潜り込んで蛹となり、冬を越します。そのため、地面を沢山の大きな毛虫がはい回るという事態になります。多くの人は、ビックリして何とかしてくれと訴える人も多いと思います。9月の授業開始直前に地面をはい回っていたので、多くの学生さんの目に触れることはありませんでした。
写真01:葉の裏側から並んで食べているサクラケムシの小さな幼虫。葉の裏側から並んで食べているサクラケムシの小さな幼虫。葉の裏側から並んで食べているサクラケムシの小さな幼虫。撮影日時 : 2023:08:30 10:52:52
写真02:こうして集団となって採食中なので、見上げると気づくかもしれません。撮影日時 : 2023:08:30 10:52:52
写真03:大きくなるとお互いに離れてバリバリと葉を食べ、地面には特徴的な糞が多数落ちてくるようになる。蚕では最終令幼虫の体重は、卵からふ化した時の一万倍の重さにもなります。撮影日時 : 2023:08:30 10:49:33
 毛虫という姿なので人にも害を与えそうに思いますが、毒性はなく直接毛に触っても人間には害はないそうです。最近、たんぱく源として昆虫食が話題になっていますが、サクラケムシは「桜の濃厚な香りと旨味がする食用昆虫として人気があります」と評価されています。
 
練馬区のホームページでは、駆除方法として以下のように早期発見と対処が大切と記されています。
 
発生時期になったら葉の裏側をよく観察し、樹木の下の地面にふんが落ちていないかを見ます。幼虫を発見したら、発生している枝葉を枝ごと切り取り、地中に埋めてください。屋内への虫の侵入防止には、網戸が効果的です。なるべく目の細かい網戸を設置すると良いでしょう。
写真04:蛹になる場所を求めて木から降りて、地面をはい回ることになる。撮影日時 : 2023:08:31 11:38:08
写真05:一週間ほどで大きなサクラの木も丸裸になってしまった。撮影日時 : 2023:09:06 09:15:45
残された多量の糞で地面の色が変わっていた。10号館前にあるサクラですが、毎年大発生するわけでもなく、葉を食われて翌年花が咲かなかったということはありません。落ち葉になる前というタイミングを選んで食べるという、長い進化上のやり取りがあるのかもしれません。
 
人類にとって最も大切な虫利用の一つは、絹を作り出す蚕です。武蔵で開講されている科目ですが「自然科学集中講座」では、2022年までは群馬県赤城山をフィールドとして植物野外実習を行ってきました。群馬県は歴史的にも養蚕と製糸が盛んな地域で、群馬県立日本絹の里があります。赤城山にあがる前に、地域の歴史と産業を理解するために毎年訪れていました。以下は、学生さんたちと訪れたときの写真です。
 
絹の里では、展示解説をお願いして、明治の富国強兵政策を支えた養蚕と製糸業について学びました。また、この施設では沢山の蚕を展示飼育していて、蚕を手に載せたりさせてもらいました。天蚕といわれる虫だけでなく、多様な蚕品種も飼育展示されていて、人類と蚕との関係の深さを知ることができます。
 
虫を知ることは、自分の中の偏見を取り除くという意味でも、また、生物多様性に気づく入口でもあります。サクラケムシを見れば、嫌悪感を抱くかもしれませんが、人と虫との関りにも目を向けてください。
 
写真06:ネクタイだと140個、訪問着だと2600~3000個ほどの繭が必要とのこと。着物一着を作るには意外に少ないと感じますが、一個の繭からは長さ約1.5キロほどの生糸が取れるそうですから、3000個だと長さ4500キロとなります。 撮影日時 : 2022:08:22 14:17:32
写真07:蚕は人の手で桑を与えないと育ちません。自分で動き回わって餌を探す行動は見られないほど、改良が重ねられてきた虫、家畜化された虫です。撮影日時 : 2022:08:22 14:19:47
写真08:養蚕農家では、熟蚕のカイコを蔟(まぶし)へ移す作業のことを上蔟(じょうぞく)と呼び、そのため回転蔟という道具を用います。這い上がる性質をうまく利用して、どの区画にも繭ができるように、重さのアンバランスに応じて回転する工夫です。撮影日時 : 2022:08:22 14:21:03
写真09:これは黒縞という品種の蚕、人造の餌を食べています。絹の里では、そのほか、姫蚕、瘤蚕、レモン、金光丸、虎蚕という品種が展示飼育されていました。撮影日時 : 2022:08:22 14:20:33
写真10:クヌギを食べる天蚕、繭は緑色、幼虫は透き通った緑色をしていました。生糸を得るには切れやすいうえに、いくつかの色調の違う繭から色合わせもしなくてはなりませんが、緑の輝きは親子3代使っても薄れることはないそうです。
写真11:ミュージアムショップには色んな品種の繭が販売されていました。撮影日時 : 2022:08:22 13:41:04